文學界2017年10月号

『木になった亜沙』

今村夏子(著)

(『文學界』2017年10月号に掲載)

 

 

 

子供のころから、自分の差し出すものは他人に食べてもらえない、という悲しい現実を背負って生きてきた亜沙

二人暮らしだった母親が死に、叔父夫婦に引き取られた亜沙だったが、やはり自分の手で差し出したものを、周りの人間は(叔父夫婦も)食べてくれようとはしない。

やがていじめの対象になったが、中学生になると非行に走り、今度はいじめる側の人間になる。

だが、どんなに他人をいじめても、亜沙の心が満たされることはなくて……。

『あたらしい娘』で2010年に太宰治賞を受賞し、同作を改題した『こちらあみ子』三島由紀夫賞を受賞した今村夏子さんの短編小説です。

今村夏子さんは、過去二回、芥川賞候補になっていて( 『あひる』 『星の子』 )実力のある注目すべき作家さんの一人です。

本作は、現代的な内容の作品であるのに、どこかおとぎ話のような要素もあり、一風変わった印象を受けました。

いじめられていく過程や、逆にいじめる側になっていく過程は、現代小説の定型を辿っていますが、あえて誇張されたデフォルメを選択していて、そこにもおとぎ話の基本的な流れがくみ取れます。

割りばしになってからの亜沙には、なんともいえぬいじらしさと可愛らしさと不気味さを感じて、これからは割りばしを使うたびに、亜沙の物語を思い出してしまいそうで、少しだけ恐い気もします。