第126回文學界新人賞受賞作品

『悪い音楽』

九段理江(著)

(「悪い音楽」はSchoolgirl 単行本に収録、『文學界』2021年5月号に掲載)

 

『Schoolgirl』が第166回の芥川賞候補となっている九段理江さんの、デビュー作です。

 

中学校の音楽教師の独白で描かれています。

冒頭、語りの人物が音楽準備室で瞑想しているところを、「無視できない音」によって邪魔され、目を開けるところからはじまります。

言葉のテンポや展開の仕方が軽妙で、読みやすい印象でした。一見軽やかですが、しかし言葉の端々から、シュールともユーモラスとも自虐とも傲慢ともとれる、なんとも言い難い冷めた語り手の内面が滲み出していて、軽く読めるけれど、どこかに絶えず引っかかりがあり、それが読み進むほどに広がってきます。語りの人物の屈折した自意識が行間から溢れていて、中々に不気味でした。

言葉の小気味よさと、作中出てきた自作のラップの「悪い」感じがマッチしていて、そこは特に面白く読みました。

やはり残念なのは、合唱祭のシーンでは生徒たちのことを無視してまでも、しっかりと自分の出し物であるヒップホップをやったのだから、ここでは自作ラップを盛大にぶちかましているところをぜひ書いて欲しかったかな、というところです。語りの人物が、ラストでは冒頭とは違う地平に着地しようとしているので、小説としてはこれで良かったのかもしれません。