群像 2017年 06 月号 [雑誌]

第60回群像新人文学賞《優秀作

『独舞』

李琴峰(著)

(『群像』2017年6月号掲載)

 

 

性暴力の被害者になったことから、心に傷を負い、社会的な疎外感の中で苦しんだ末に、台湾から日本へやって来た趙迎梅

彼女は、「紀恵(のりえ)」という日本風の名前を自らに付け、企業に就職し、周囲には明るい性格の持ち主として、表面上は問題なく生活していた。

が、その一方で、心の傷は癒えておらず、抗鬱剤を服用し続けていた。

『天袋』の上原智美さんと同時に、第60回群像新人文学賞優秀作を受賞した李琴峰さんの『独舞』(当選作はなし)。

台湾と日本という二か国の文化の香りがするだけでなく、古典的な文学の気配も感じられる作品でした。

性的少数派として苦しむ主人公の体験が、三人称(時に日記という形で一人称にも)で語られていきます。

やがて決定的な事件が引き金になって、主人公は、ずっと引きずり続けた自らの「死」と対峙することになります。

挿入されてくる数々のエピソードや展開は悲劇性が強く、主人公が「死」と向き合うまでになった経緯がそこにあって、途中まではかなり引き込まれて読みました。

何気ない描写や、人物に纏わる小さなエピソードを積み重ね、物語をリアルに構成していくあたりは、かなり力量がある作家だな、と感じます。

残念だったのは、最大のカタルシスであろうラストでした。

ここにきて、あまりにも都合よく展開されすぎたことと、その結果、全てをあまりにも整然と解決しすぎていて、これでは何も解決していないのと同じではないか、と(少なくとも一読者としては)思えてしまい、作者との距離を感じずにいられませんでした。

とはいえ、非常に魅力のある作品だとも思いました。

古典的で美しい小説の流れを正統的に継承していて、そこに持ち味である国際的な感覚が加わわり、独自の方向性を模索しているという印象です。