群像 2017年 11 月号 [雑誌]

『流光』

李琴峰(著)

(『群像』2017年11月号に掲載)

 

 

 

 台湾の大学で日本語を専攻し、日本系大手携帯キャリアに就職して日本にやってきた「」は、歌舞伎町のSMバー「リヴァイアサン」の常連客である。

小学生のころから、サドマゾキズムの世界に興味があった「私」だったが、大学時代に参加していたSMコミュニティのメンバーだった少年の自殺を機に、一時その世界から遠ざかっていた。しかし一年前、ツイッターから流れてきた緊縛ショーのチラシをきっかけに、「リヴァイアサン」を知り、常連となるのだ。

もうじき70歳になる店の経営者の和雄は、収益重視の経営ではなく、店はSM同好会のようで居心地が良かった。

だが、和雄の家の事情から、店の経営を他人に譲ることになり、「リヴァイアサン」は、以前の店とは様変わりして……。

 

レズビアンであると同時に、幼少時からサドマゾキズムの世界にも興味を持ち続けてきた、日本に住む台湾人の女性、というのが、この小説の主人公です。

歌舞伎町のSMバー(「リヴァイアサン」)に集まる人々の姿を、主人公の真っ直ぐな視線が捉えます。

一時は楽園のように「私」の居場所となっていた「リヴァイアサン」ですが、店の経営者が交代することによって、全てが移ろい、変わっていきます。

マイノリティの人々を描いた小説だと言えると思いますが、驚いたのは、この作品が持つ世界の深みとそこにある強度です。

自らの内面が抱えた問題や苦悩と向き合いながらも、しっかりと現実を見据えて生きている主人公の姿があり、けっして刹那的でも自暴自棄でも自虐的でもない。

この小説には、未来がある(それがどのように移り変わった、未来であったとしても)。

そう感じました。

作者の李琴峰(り・ことみ)さんは、『独舞』第60回群像新人賞優秀作を受賞して、作家デビューされました。

残念ながら受賞にはなりませんでしたが、今回の作品で、その個性がより鮮明に、濃くなったという印象を持ちました。

これからも、作品を楽しみにしています。

 

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