第64回群像新人文学賞受賞作品

『鳥がぼくらは祈り、』

島口大樹(著)

(『群像』2021年6月号に掲載)

 

第64回群像新人文学賞は2作品か受賞していて、本作品と同時受賞されたのが、石沢麻依さんの『貝に続く場所にて』(第165回芥川賞受賞作品)です。また、島口大樹さんは『群像』2021年12月号に掲載した『オン・ザ・プラネット』が、第166回芥川賞候補作品となっております。

本作品は、『ぼく』という語り手を通して、4人の同じ年の、境遇が似通った少年たちの行動が描かれています。

主な視点人物を『ぼく』としながらも、時折友人である人物たちの視点からも描かれ、なおかつ『ぼく』が一元視点を完全に放棄してはいない、という奇妙な文体を創り出しています。

視点人物が語り手である「ぼく」からランダムに友人の少年の誰かに移り替わり、また自然に「ぼく」へ戻っていく様は、文体そのものからも少年たちが一つの生命体のように繋がっている感覚を表現しているともとれて、非常に面白かったです。

友人の1人が撮影するビデオカメラの設定も上手く使われていたと思います。

映像として記録された無機質な画像データを、より大人になったであろう時点から観ている人物の視点で、世界が描かれているわけです。

人間の記憶と実際の出来事とが、どこかで乖離しているような感覚。人間の思考や記憶という常に揺らいでいるあやふやなものが、ビデオカメラの画像データという、一切のあやふやさを挟まないデジタルなものにいったん置き換わり、しかしながらそれを見返し、見返したものを言語化しているのは、やはり人間の有機的な視点なのです。

少年たちの抱える問題や彼らの物語は、小説の仕掛けそのものに比べると、やや魅力を欠くものであった気がします。少年たちの日常は、もっとさらにシンプルで良かったのかもしれないという気がして、彼らがこんなにも悲劇的であることに意味があったのか、いやあるのか……などと、個人的には色々考えてしまいました。