『脱皮』

小林エリカ(著) 

(『群像』2020年6月号に掲載)

その病気にかかると、少しずつ言葉をなくしていき、最終的には日常生活も出来なくなって、「虫」と罵られ、嫌悪される存在になってしまう。そういう病気が蔓延しはじめている世界の話。

コロナ禍の現代を風刺したような内容となっていますが、風刺は表層的な部分に留まりません。言葉により繋がり、言葉によって傷つけ合うSNS時代の悲しみや狂気の世界が、寓意的に浮き彫りにされていて、現代社会の闇との向き合い方が非常にうまい、シンプルであると感じました(それだけに鋭いということです)。

シンプルだけれども普遍的な真理もそこには見え隠れします。例えばラジウムに象徴されるようなものへの視点ー人間を幸福にするものは、同時に不幸にもする諸刃の剣の如きものであるというような感性が、揺るぎなく小説の根底にあるのだと思います。作品は、複数の人物視点から成り立っていますが、特に気になったのは少女の視点で、この少女の視点で描かれたラストのくだりには、鳥肌が立つような美しさを感じました。