『海がふくれて』
高橋弘希(著)
(『新潮』2020年8月号に掲載)
海辺の漁師町で生まれ育った17歳の少女。その瑞々しさが文面に溢れていて繊細。また、少女の視点を通して淡々と描かれる海辺やそこに暮らす人々の生活の様子が、リアルに伝わってくる。
読んでいくうちに、海(自然)と人間が境界をなくしていく感じがして、なんとも心地いい作品だと思った。まだ子供のようなあどけなさを残す17歳なのに、自身の将来や幼なじみの恋人との関係を、割と淡白に受け止めている感じがして、それでいて同時に未熟さと危うさもあるから常に不安定に揺れている。青い。青くて透明感がある。この少女の内面の印象が、海と共鳴しているようであり、そこがとても良かった。