『掌』
西加奈子(著)
(『すばる』2020年6月号に掲載)
語り手の「私」と、その叔母であるアズちゃんとの交流を描いた作品。
独身の中年女性であるアズちゃんは、女の子に人生を教えてくれる「ちょっと変わったおばさん」であり、これは男の子に人生を教えてくれる「ちょっと変わったおじさん」が世界に溢れているのだから、女の子にもそういう存在があっていいはずだ、という視点に立った人物像なのです。ある種の理想というか、若い女性が年上の女性に求める女性像ともいえるでしょう。ただし、このアズちゃんなる女性は、確かに変わっていますが、「私」が求める理想形とは違う変わり様で、個性豊かな人物です。
物語は、この風変わりなアズちゃんと「私」が体験する奇妙な出来事を切り抜いています。そこに、実はジェンダーの問題が秘められています。
結構辛辣なところを突いていると思うのですが、西さんらしいコミカルな優しさに包まれていて、性の生々しさもありながら、読後感の悪くない作品でした。