第163回芥川賞候補作品

『首里の馬』

高山羽根子(著) 

(『新潮』2020年3月号に掲載)

 

題名にもある通り、物語の舞台は沖縄の首里です。

この地域の一角に、一軒の古いコンクリート建築の家があり、ここを島の資料館として所有している高齢の女性がいて、主人公はこの女性の知り合いで、あるきっかけから資料館に出入りするようになった若い女性です。

対人関係を築くことが苦手で、孤独を抱え込んでいる、現代の若い女性、未名子。

彼女の視点から、沖縄の歴史や文化、戦争、現代社会の孤独、といったものが描かれています。

未名子が勤めている特殊な職場の描写や、そこに登場してくる人物たちの造形はどこか奇妙で、ある種の興味を引く形になっていたと思います。

資料館に保存されている資料をさらに大事に継続させていく為に未名子がやっている作業なんかも、デジタルとアナログが融合されていて、適切なのか適切でないのかがよく分からないところが面白いなと思いました。

ただ、作品全体を俯瞰したとき、沖縄について、戦争について書かれた描写が、どこか説明的になっている印象があり、戦争を知らない世代である未名子の視点から描かれているので不自然ではありませんが、そこと現代とを繋ぐ要素が、資料館や、作品中盤から登場する宮古馬だけでは若干弱いのではないか…という気がしてしまいました。

宮古馬の神秘性に作者が込めた想いは、その熱量は、いかなるものかと思いながら読み終えたのでした。