『いまから帰ります』 天童荒太(著)  (『新潮』2020年2月号に掲載)

被災地で除染作業のアルバイトをする映画監督志望の青年の視点で描かれた人間ドラマ。

現場での作業風景や、そこで働く人々の背景にあるものがリアルに描かれていて、今現在の日本が抱えている問題の縮図がそこにあるようで、考えさせられる。

生身の人間の肉体や精神、ひいては人生を危険に晒してまで『除染をする』ということの危うさと虚しさについて思いを馳せました。

戦争やヘイトというワードが、除染作業をしている現場の最前線で絡まってきて、そこに震災でかけがえのない存在を失くした現実を生きている人間の、どこか置き去りにされたような悲しみがある。

作中に引用されていた映画監督伊丹万作の言葉は、まさに今の時代に生きていても、叩きつかられるように響いてきた。

最後はジンワリと温かい。