『ドレスセーバー』 大前粟生(著) (『新潮』2018年12月号に掲載)

 

以前、同作者の『回転草』(書肆侃侃房)いう短篇集の読書感想を書きましたが、本作品も短篇です。

題名にもなっているドレスセーバーというのは、屋外に展示された岩や鉄で出来たドレスの中でパニックになった観光客を救い出すという、ちょっと奇妙な職業です(この説明で意味が分からないという方は、是非とも本作を読んで頂きたい)。

この仕事についている女性が主人公の物語なのですが、設定からして荒唐無稽だしシュールだな、と思います。

そしてそのシュールさの奥に、なんとも言えない後味の悪さと不気味さがあったように感じました。

不気味だと言っても、そこに幽霊や妖怪の類が出てくるわけではなく、出てくるのは人間だけですが、その人間がドロドロとヘドロみたいな内面の臭気を漂わせていて、怖い、という感じなのです。

しかも、その人間は特別な善人でも悪人でもない、ごく普通の人間です。ここに書かれているのは、あらゆる人間の中にある、普遍的な内面ではないかと感じます。

そこが心を抉るのだと思います。