第42回すばる文学賞受賞作品
『わるもん』
須賀ケイ(著)
(『すばる』2018年11月号に掲載)
ユーモラスなのにどこか寂しくて不穏、というのが、この作品を読んだ印象でした。
時代背景も場所も不鮮明ながら、生活している家族の姿があり、そこにはキラキラとした不穏さと切なさと、おかしみがあるように感じられました。
物語の展開というよりも、好奇心と無邪気さに満ちた眼差しがあり、その眼差しはどこか歪んだ幼さで貫かれていて、常に突拍子もない転げ方をしていきます。その眼差し以外に小説の舵を取るものがないので、読者はこの不可思議な視点から見た世界を味わうことになります。そのため、(小説が)いったいどこに向かって行くのか、そして何を隠し持っているのか、読めない(読ませない)全体があったように思います。
小さな硝子工場を営む父親は、なぜか主人公(純子)以外の家族(母親と二人の姉妹)からレーズンのように疎まれている「わるもん」であり、不満に耐えかねた母親によって家を追い出されます。
読みはじめでは、主人公は幼稚園に通う幼い子供であると思われたのですが、それにしてはどこか腑に落ちない描写も交じり出し、やがて奇妙な人物として、どんどん腑に落ちないものをまき散らしていきます(これ以上言うとネタバレになってしまうので、とりあえずここまで)。
父親の人物造形と合わせて、営む硝子工場の様子や、何よりも間接的な筆致で父親を描くためにより多く描かれることになる母親との関係性やその人物造形は、実に味わい深く良かったと思います。
隠されているものの中に、主人公以外の家族の寂しさとか愛情が見え隠れしていて、主人公や「わるもん」の父親を囲んで、様々な(家族の)感情の交錯があります。
視点人物である主人公の心さへ、実は何一つ直接的には伝えられてはいなかったと思うのですが、文章が持つ場面場面での温度が、それを代弁していたようにも感じました。