文學界 2018年11月号

『わたしの拾った男』

木村紅美(著)

(『文學界』2018年11月号に掲載)

 

 

48歳の独身女性の暮らす部屋に、記憶喪失だという不審な男が迷い込み、不思議な共同生活がはじまる、というお話。

職場での人間関係や、そこでの疎外感、両親も亡くして余命宣告されている伯母を見舞う以外は、他者との交流の乏しい女の背景がリアルに描かれている一方で、留守中に勝手に忍び込んできた謎だらけの男(普通なら警察に通報する状況だが)を部屋に置き続け、食事を与え続ける女の行動やそこに潜む心理は、読み手の想像を超えて暗く歪んでいます。

やや無理があるような設定および展開ですが、ここには心理的な飛躍が存在しているようで、現代版のお伽噺として捉える方が、理解しやすいし受け入れやすいような気がします。

木村紅美さんは過去にも、リアル現代社会の中に河童が登場したり(『夢を泳ぐ少年』)、白鳥(の化身?)が登場したりする話(『羽衣子』)など、やや神がかり的な小説を書かれてもいるので、本作もある種のお伽噺なのだと私個人は解釈しました。

心に傷を負い、時代の流れにも遅れがちな中で、ひたすら生きづらさに晒された女の孤独が、読んでいて胸に重たい作品でした。だからこそ、作者はお伽噺のような優しさを、作品に盛り込んだのではないかと、そんな気がします。