『マチネの終わりに』
平野啓一郎(著)
(毎日新聞出版)
38歳のクラシック・ギタリストの蒔野聡史と、フランスの通信社で記者として働く小峰洋子(40歳)の、すれ違いながらも強く惹かれう男女の姿が描かれた作品。
大人の恋愛小説。と言ってよいと思うのですが、さらに深く人生や人間存在の意義のようなものを問いかけてくる内容だったようにも思います。
人生の最盛期のような時代を通り過ぎようとしている男女。一見、華やかな世界に身を置き、経済的にも恵まれていて幸福そうですが、彼らはそれぞれ内に問題を抱え込んでいて、人生の岐路に立っています。
そんな二人の男女が、精神的な絆から結ばれて、やがて結婚を視野に入れた関係へと発展していき……という筋書きなのですが、そこから思わぬ転換があり、運命の歯車が狂っていくことになります。
この悲劇的な展開の裏側に、人間の自由意志とは別の次元で存在する神の意志(あるいは宇宙、もしくは運命の意志)のような力、それに翻弄される人間が”どうして?”と思わず投げかけたくなるような不条理なものの力の存在があるのだと、小説は登場人物たちに気付かせていきます。
自分たちの力ではどうにもならないかのようなその絶対的な意志に対して、純愛のように人間の内側から発する純粋な感情や意志の力がどこまで及ぶものなのか、というようなことを問いかけている作品だったように思います。
ある一つの裏切りから悲劇的な様相へと流れ出す中盤以降の展開からは、目が離せなくなってしまい、そこからラストまではほとんど一気読みでした。
本作では恋愛という形をとっていましたが、さらに大きく人間の愛や人生そのものへの優しさがこめられている作品だったようにも思います。
ぜひ、映画も観てみたくなりました。