『少年たち』
水原涼(著)
(『文藝』2018年夏号に掲載)
水原涼さんの出身地でもある鳥取県の田舎を舞台にした中篇小説。
閉鎖的な社会の中で、暴力への憧れと恐れを抱きながら生きる、少年たちの世界が描かれています。
少年たちはみな13歳。
彼らが、刑法上の責任能力がないものとして扱われている14歳未満、というのが肝心で、14歳の誕生日が少年たちにとって、一つの心の区切りにもなっているようです。
舞台が田舎であることや、少年たちの暴力性が扱われているところなど、第159回芥川賞を受賞した高橋弘希さんの『送り火』に少し似ているという気がしましたが、閉鎖的な社会での暴力の連鎖というのは、水原さんが2017年の2月号『群像』で発表した『蹴爪(ボラン)』にも通じるものであり、長年温めているテーマなのだと思います。
また、少年たちの暴力が、虐めのような陰湿な傾向に向かうのではなく、”ドラッグ”と仲間内だけで呼んでいる飲み物を中心に、奇妙な結束へと向かっているところなど、『送り火』とは違う趣向が見えてきます。
ラストでは少年らしい爽やかな友情の世界に戻っていて、しかし14歳になった主人公の少年の心には、なにかしらの寂しさが滲んで感じられます。
この少年の抱える漠然とした寂しさこそ、本作の魅力ではなかったかと思います。