文學界2018年7月号

『愛が嫌い』

町屋良平(著)

(『文學界』2018年7月号に掲載)

 

 

 

受賞こそは逃しましたが、『しき』芥川賞候補になり注目された町屋良平さんの、『文學界』に掲載された中篇小説。

会社を辞めてフリーターになった29歳の「ぼく」は、友人夫婦の子供(ひろ、2歳)を保育園に迎えに行く役割を、ここ三ヶ月ほど引き受けています。

幼少期からの成長過程で、家族との関係をうまく築けなかったが故に「愛」を信用できず、自らのことも肯定できない「ぼく」という男は、社会の流れや常識に馴染めずにいて、”非社会的状況”に、自ら進んで身を投じています。

そんな「ぼく」にとって、言葉は理解できても、まだほとんど発語することのできない幼い子と過ごす時間は、不思議な安らぎを与えられる時間でもあります。そこには、言語を介さないからこそ存在する、共鳴めいた感覚があるようです。

一方で、ある種の子供返りともいえる甘い時間が、そんなに長く続くものではないことを「ぼく」は自覚しています。その「自覚」があるからこそ、この小説は切ないのだと思います。

「愛」を受け入れられない男の物語ですが、この作品を読むと、この世界が実は「愛」によって構成されているのだという気が強くしてきます。

作品のラストで、なにかが動き出しそうな気配もしましたが、それはなにかしらの「愛」に向かっていくための、手探りに似た動きだったような気もします。