早稲田文学増刊 女性号 (単行本)

『せとのママの誕生日』

今村夏子(著)

(『早稲田文学増刊 女性号』に掲載)

 

 

 

『早稲田文学増刊 女性号』に掲載された、今村夏子さんの短篇。

「スナックせと」のママの誕生日を祝うべく、三人の元従業員の女たちが集い、眠っているママを囲んで、懐かしいスナック時代を語り合う、というお話。

面白いのは、三人の女たちが店で働いていた時期はみんなズレていて、お互いのことはママから聞いた話などで知っているけれども、会うのははじめて同士であること。

大勢の若い女たちがある一時期に名物ママの元で働き、クビになって去っていった。みな、それぞれにコンプレックスを抱えていた10代の少女たちばかりで、せとのママは、彼女たちのコンプレックスをむしろ「商売道具」として生かすやり方で稼いでいた。

その商売道具がなくなった時、女たちはクビになり、失くした自らの「商売道具」を探しにいって、どういう訳か自分の家の冷蔵庫の中で見つける。

なんだか、うらぶれたスナックのママが、神話の世界のように神がかりな力で女たちを繋いでいる感覚があり、なんともいえない可笑しみと、可愛らしさが溢れている作品でした。