第159回芥川賞が発表され、高橋弘希さんの『送り火』が受賞作に決定しました。(第159回直木賞は、島本理生さんの『ファーストラブ』が受賞されています)

新人文学賞からいきなり候補作になった北条裕子さんの『美しい顔』に、盗用疑惑が持ち上がるなど波乱含みだった今回の芥川賞ですが、振り返る意味で候補作の読書感想(全て個人的に私が書いたものですが)をまとめてみました。

(※以下は作家名の五十音順にての記載になります)

 

 

古谷田奈月 

『風下の朱』(→読書感想はこちら)

無限の玄/風下の朱 (単行本)

野球に情熱を燃やす女の子たちの青春が描かれていて、一見爽やかそうですが、「性」が直面する問題が浮き彫りにされていて、深く考えさせられる一作でした。

 

 

高橋弘希 

『送り火』(★受賞作)

(→読書感想はこちら)

送り火

父親の転勤で東北地方の中学校に転校することになった少年の視点から、閉鎖的な社会でのいじめや暴力の実態が詳細に描かれていきます。

ラストに及んでの急展開と、そこで突きつけられてくるものが恐ろしく、読み手でさえも部外者ではないという感覚が残りました。

読んでいた小説に突然切り付けられたという感覚に、ただ唸るしかありませんでした。

 

 

北条裕子 

『美しい顔』(→読書感想はこちら)

群像 2018年 06 月号 [雑誌]

色々と物議を醸しましたが、選考委員の認識は「盗用にはならない」で一致したようです。

作家の”書く姿勢”や、盗用と引用の違いについてなど、表現に携わる者が直面するさまざまなことを根本から考えさせられました。

 

 

町屋良平 

『しき』(→読書感想はこちら)

しき

四季の移り変わりのなかで息づく、どこにでもいそうな普通の高校生たちの日常が描かれていて、ストーリーそのものよりも、文章の中に投げ込まれてくる、ありふれたものに対する一つ一つの「気づき」が、作品の命だったような気がします。

何かを感じ、何かに気付き、それに与えられるべき言葉を有しないまま、それでも一つ一つの感覚を大事にしているような様は、そのまま少年たちの”生きている”という実感にも繋がって読まれました。

 

 

松尾スズキ 

『もう「はい」としか言えない』

 (→読書感想はこちら)

もう「はい」としか言えない

読んでいて、不思議と引き込まれる作品でした。

観光地としてイメージする「美しいフランス」とは違う素顔を垣間見せるフランスと、そこに迷い込んでしまった、やや情けない印象の中年男という構図は面白く、映画のように楽しんで読んだ小説でした。

 

 

 

以上、第159回芥川賞候補作品の読書感想まとめでした。

なお、受賞作の『送り火』については、改めて感想を書くつもりです。