『満潮』
村田沙耶香(著)
(「早稲田文学増刊 女性号」)
川上未映子さんが責任編集する「早稲田文学増刊 女性号」に掲載された村田沙耶香さんの作品。
まず、総勢82名の書き手からなる「早稲田文学増刊 女性号」なるものが、かなり充実して圧巻な内容となっています。私の好きな村田沙耶香さんの作品もあったので、読んでみた次第です。
5歳年下の夫と結婚して5年目になる女性が、”夢精をして目が覚めた”という衝撃的な告白をする書き出しではじまります。
夢精というものは男性だけがするものだという性に関する思い込みが、冒頭から崩されるわけですが、夫婦仲は至って良好なのにセックスレス状態が続いている夫が、次には「潮噴き」を体験してみたいと、突然言いだします。しかも夫は、自分一人で「潮噴き」を体験したいと考えていて、その決意は真剣そのものです。
夫と妻がそれぞれの性と独自で対峙していくことで、夫婦とは性を共有する者同士だという前提が揺すぶられていくわけですが、それでいてさらに深い所では繋がっているというような、極めて特異な夫婦の性愛が出現していて、興味深く読みました。
作品の根底には、限りなく個人的な権利でありながらも、大きな見えざる力に支配されて自由を奪われてしまう「性」の危機感と、その外圧からの解放があると思います。これは、少し前に読んだ『地球星人』にも通じるテーマだった気がします。
解放された「性」のイメージと、万物の源である海のイメージとが自然と重なってくるところに、詩のような趣を感じる作品でもありました。