愚行録 (創元推理文庫)

『愚行録』

貫井徳郎(著)

〔創元推理文庫〕

 

 

閑静な住宅街で起きた、一家惨殺事件。

大手不動産会社勤務の父親と、清楚で美人の母親、可愛い二人の子供。絵にかいたように恵まれた一家は、なぜ事件に巻き込まれたのか?

そのインタビューという形で、事件の背景が語られていく。

生前に被害者夫婦と関りのあった人々が、どうやら取材記者を名乗っているらしい人物に向かって、インタビューに答えるという形で、順繰りに語りだします。

面白いのは、同じ人物のことを話しているのに、語り手によって人物像にズレが生じてしまうこと。それによって、多面的で重層的な人間像が立ち現れてきます。

「愚行録」とは、語られる側の被害者夫婦だけでなく、インタビューされる側の語り手である人物たちも含めた、複数人の愚行をまとめたものだということが、読んでいくうちに分かってくる、という仕掛けです。

語り手が、自分に都合のいいようにしか物語を語っていないようなのが、なんとなく伝わってきます。

そこが、登場人物の多い現代版の「藪の中」みたいな様相で、面白かったです。

(事件の真相は、藪の中ではなかったですが、そうなっていても、むしろ面白かったんじゃないかな……と、これは個人的な意見です)