『さくれぶる』
沼田真佑(著)
(『すばる』2018年5月号に掲載)
オフ会で知り合って一時期交際していた女性(静香)から、八年ぶりに届いたメールには、これからネット心中をするという内容だった。
計画を阻止するため、「おれ」は静香に会いに行くが……。 |
『影裏』で第157回芥川賞を受賞した、沼田真佑さんの短篇小説です。
描かれているのは、ネットで仲間を募って集団自殺しようとしている女性(かつての恋人、と呼んでよいかどうかは微妙な関係)と、それを止めようとしている語り手である「おれ」の、現在と過去。
会わなかった八年という空白の時間に横たわる”闇”が、描かれないことでむしろ不気味さを湛えているという気がします。
一見、人間同士の関係は淡く、「死」は記号のように無機質な実感でしかないもののように読めてしまう。けれど、本当にそうだろうか?
読後になってから、新たな発見や疑問が膨らんでくる、という不思議な味わいの一作です。