『潟湖(ラグーン)』
ジャネット・フレイム(著)
/山崎暁子(訳)
(白水社)
『すばる』2018年3月号で、ジャネット・フレイムの短篇(二作品)が掲載されていて、面白かったので読書感想を書いたのですが、そこからさらに気になったので、デビュー作であるという本書を読んでみました。
表題作(『潟湖』)を含む、24作からなる短篇集です。
ジェネット・フレイムは、ニュージーランドを代表する作家の一人で、自伝を映画化した『エンジェル・アット・マイテーブル』が有名です。この映画が作製されたのは1990年のことで、当時話題になっていたのに、観ていなくて、いまだに観ていないのですが、今回彼女の作品を読んでみて、ぜひ観てみたいと思うようになりました。
ジャネット・フレイムという人は、貧しい鉄道員の家庭で育ち、大学を卒業して小学校の教師になるのですが、退職。その後、統合失調症と診断されて精神病院で過ごすようになり(8年間のうちの4年間も)、その上なんとロボトミー手術を受ける予定だったのですが、デビュー作だった本書(『潟湖』)が、ヒューバート・チャーチ記念賞を受賞したことで、手術を免れます。
本書の中にも、精神病院の話が出てくる作品がいくつかあって、人生と作品と精神世界とが切っても切り離せない関係であるようです。
作品は、一見平穏にみえる、つまりなにも事件の起こらないありふれた日常を描いているようで、その奥になにか得体の知れないものを感じさせます。その「何か」とは、作者の心の奥にある、得体の知れない「何か」と強く結びついた「何か」であろうと思うのですが、容易にその正体を明かさないところがあって、想像を掻き立てます。
小説というよりも、詩に近いのかもしれません。
【関連】
映画
『エンジェル・アット・マイテーブル』
(1990)
(ジェーン・カンピオン監督)