『月に吠える』
中村航(著)
(『ぐるぐるまわるすべり台』/文藝春秋/に所収)
野間文芸新人賞を受賞した、『ぐるぐるまわるすべり台』を単行本化する際、書き下ろされた作品であるようです。
主人公は、派遣社員として現場の製造ラインに派遣され、ミニラボをつくっている青年、哲郎。
同じ会社の別の部署に働く千葉と知り合い、「俺たち、バンドやらねえか?」という話になります。
彼らは、『ぐるぐるまわるすべり台』でも登場してくる人物でもあります。二つの作品は独立した内容ですが、やがて繋がっていくことを連想させるところで終わります。
労働の現場で、より作業効率を高めることを提案し、そのシステムを構築することに情熱を注ぎ込む主人公の哲郎が、自らの仕事を失う(かもしれない)という皮肉な結果に導かれたことで、何かを悟るような境地に至る所など、なかなか面白い展開でした。
最後に音楽に辿り着くのは、皮肉な現実からの逃避ともとれなくもないですが、そこに希望があることも読み取れます。
小説でありながら音楽を感じる、という魅力をそなえた作品でありますが、感じ方や解釈を限定せず、受け止める側の感性に委ねているようなところも、音楽と似ているのかもしれないと感じました。
ちなみに、題名の「月に吠える」は、オジー・オズボーンのアルバムです。(原題:「Bark at the Moon」)
【関連作品】
『ぐるぐるまわるすべり台』
中村航(著)