文芸 2017年 11 月号 [雑誌]

『空港時光』

温又柔(著)

(『文藝』2017年冬号に掲載)

 

 

 

芥川賞候補作になった『真ん中の子どもたち』の作者、温又柔さんの、連作小説で、10個のエピソードからなります。(『文藝』2017年冬号には、連作が一挙掲載されています)

台北市で生まれて、三歳から日本に住み、台湾語と日本語と中国語の飛び交う環境で育った温又柔さんは、小説だけでなくエッセイも書いていますが(第64回日本エッセイストクラブ賞を受賞した『台湾生まれ 日本語育ち』など)、自らの境遇に向き合うことが、創作の原点にあるようです。

本作は、羽田と台北、二つの空港を舞台に、日本と台湾と両方の世界に身を置く登場人物たちの物語を描いていて、空港という場所が二つの国を繋ぐ、中間地点になっています。

言語の問題だけでなく、日本と台湾、そして中国との間に横たわる歴史などにも触れ、家族や恋人など人間関係が十色に描かれます。様々な年代の登場人物を配置することで、重層的な小説世界が立ち上がっているという印象を受けました。

自己の問題と向き合うことに重点を置いてきた温又柔さんですが、さらに作家として飛躍する可能性を感じさせてくれる作品でした。