笙野頼子三冠小説集 (河出文庫)

タイムスリップ・コンビナート』

笙野頼子(著)

(『笙野頼子三冠小説集』に収録)

 

 

 

マグロと恋愛をする夢を見て悩んでいた主人公の「私」(沢野)の元に、当のマグロともスパージェッターとも判らない相手から電話がかかってきて、いろいろ話すうち、海芝浦という駅に行かされる羽目になり……

本作は、第111回芥川賞受賞作品です。

そもそも夢に惑わされていた主人公が、さらに追い打ちをかけられるみたいに、妙な電話に誘導され、「海芝浦」なんて、浦島太郎の故郷みたいな名前の駅へ向かわされる、というこの冒頭からシュールです。

(※駅名もそうですが、ホームの一方が海に面していて、もう一方は東芝の工場の通用口を兼ねた出口で、海に飛び込むか東芝に行くしかない駅、というのも、そこそこシュールではないでしょうか。ネットで調べたら、本当に存在しました)

時空の感覚とか、現実と虚構の距離の取り方とかが、圧倒的におかしい。それなのに、読み始めると不思議なほどすんなりと小説世界に入っていけて、そこにいた間中、なぜかとても心地よかったです。

どこかとぼけた味わいのある「私」の語りが面白いので、どんどん引き込まれて読みました。

過去と現在が奇妙に交錯しているような(それでいておかしな現実感のある)場所で、ほのかな郷愁とも呼べる感情に巡り合えたのは、まったく貴重な体験でした。

スーパージェッターを私は知りませんでしたが、1965年から1966年にかけてTBS系列局で放送されていたSFアニメ『未来からきた少年 スーパージェッター』の主人公みたいです。