僕と妻の1778話 (集英社文庫)

『僕と妻の1778話』

眉村卓(著)

(集英社)

 

 

 

 

 

この作品は、悪性腫瘍のために余命1年と宣告された妻のために、作家である夫が一日一話の短い話を書き続けたもの(全1778話)から、52話だけセレクトし、各話ごとに付けられた作者の言葉(執筆時の裏話など)と共にまとめられたものです。

映画にもなりましたし(『僕と妻の1778の物語』)、新潮社からも、『妻に捧げた1778話』という題名で(こちらは19話の作品とエッセイという構成のようです)出版されています。

新潮社版の方はまだ読んでいないのですが、「アメトーーク!」(テレビ朝日系)で紹介されて、お笑い芸人のカズレーザーさんが”15年ぶりに泣いた”というコメントで話題になったのは、こちらの方だと思います。

新潮社版を読んでいないのでなんともいえませんが、セレクトされた作品やエッセイの内容が違っていても、根本的な作品の趣旨は同じだろうと思います。

SF作家である夫の眉村さんが、毎日1話の短い物語を、病床の妻のために1778日間書き続けた、その軌跡がそこにあるわけです。

カズレーザーさんの影響なのか、”泣ける作品”というイメージが先走りしてしまっているようで、そこが少し残念でもあります。

なぜなら、たぶん作者の眉村さんは、読者を泣かそう、感動させてやろう、なんて、微塵もそんな気持ちで書いてないだろうからです。

これは、あくまでも、病と闘っている奥さんを、少しでも笑わせてやろう、元気づけてやろう、という気持ちだけで書き続けたショートショートの集積なので、本作を読んで泣く場面があるとしたら、そこからさらに想像力を働かせて、作品上で書かれていない、作者やその妻の心の裡を読んだ時です。あえて書かれていない、行間の琴線に触れられた時、はじめて涙が溢れる、これはそういう本なのです。

そういう意味で、最終回には作者の様々な想いが込められていると思います。(ネタバレになるので、詳細は書きませんが)

ランダムに選ばれていた作品が、1775話から最終回までは続けて掲載されていて、ここに至って内容もだいぶ混乱気味に読めるのも、切迫した「書かれていない部分」の情況があったからだろうことが伺えます。

また、一話づつに付された作者の言葉の中にも、やはり色んなことが想像できてしまうところがあり、そこから広がってくる、「書かれていない部分の物語」は、確かにぐっとくるものがあります。

 

最後に、私が本作中で特に好きだなと思ったものや、妙に気になった7篇を、挙げさせてもらいます(まことに恐縮ですが……)。

●「魔除け」(91)

●「ミニミニロボット」(127)

●「悪徳大名」(162)

●「地下街の便所」(329)

●「乱世型社員」(354)

●「スギサク」(683)

●「早朝の喫茶店で」(998)