『ブルーハツを聴いた夜、
君とキスしてさようなら』
ふくだももこ(著)
(『すばる』2017年12月号に掲載)
関西の田舎の高校に通う「私」は、二ヶ月前に母親が家を出て、父親と二人生活。
母親が家を出たころに東京から高校入学と同時にやって来た少年、伊尾と付き合っている。 二人の共通点は、ブルーハーツを聴くこと。 デートはいつも「私」の生活の拠点でもある、モールの駐車場。 そこで二人は、ブルーハーツを聴いたり、セックスをしたりする関係だったが…… |
ブルーハーツ(THE BLUE HEARTS)は1995年に解散しました。
「青空」「情熱の薔薇」「リンダ リンダ」「TRAIN-TRAIN」「キスしてほしい」……ヒット曲は異様なくらい、どれも頭に残っています。
ブルーハーツの解散後も、主要メンバーの甲本ヒロトや真島昌利(マーシー)は、バンド名を変えながらも音楽活動を続けていて、現在はクロマニヨンズ(THE CRO-MAGNONS)。
けれど、いつのころからか彼らの音楽は、私の日常から遠くなっていました。だから、ふくだももこさんが書いたこの小説の題名を読んだ時、正直すごく懐かしかったです。
ふくだももこさんは、1991年生まれなので、ブルーハーツ世代ではないでしょう。(ものすごく幼かったころに、親の影響で聴いていたかもしれませんが)
小説の主人公である「私」は、もっと若い設定なので、なおさらだろうと思います。
けれど、今時の高校生と、1980年代後半から1990年代前半に活動していたパンク・ロックバンドが、ありふれた田舎のモール(それも駐車場)でシンクロします。
隔たった時間の中には、もちろん様々な歴史的事件勃発やそれに伴う社会的背景の変貌、刻々と移り変わる気まぐれな流行りすたりがあって、とにかく色々あったのに、それらをすべてすっ飛ばして、音楽の力でなんの説明も理屈もなく、一瞬で世界が繋がってしまう。
そういうことを、客観的に読ませてもらったという気がする作品でした。
この主人公の少女に疎まれる、ややKY気味な父親もまた、もしかするとブルーハーツを聴いていた若者だったかな、ということを、読後に少し考えました。