新潮 2017年 09 月号 [雑誌]

『草薙の剣 昭和篇

橋本治(著)

(『新潮』2017年9月号掲載)

 

 

 

 

6人の日本人とその家族たち(6世帯におよぶ)の人生と、彼らから見た、昭和から平成にかけての、日本の姿を綴った長編小説。その昭和篇です。

戦中・戦後の混乱から、徐々に人々が”平常”を取り戻し、その子や孫たちの世代になって豊かさを手に入れていく過程が、実に詳細な時代背景とともに描かれていて、記録映画を観ているような感覚で読みました。

人々が、それぞれの時代の現実に、微かな疑問や違和を感じながらも、淡々と受け入れて生きていく姿に、リアルな「生」の感触を覚えます。

長大な時間の流れの中で、何世代にもおよぶ物語を描いたという点では、ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』にも似ていると思いました。

ただし本作は、”一族”という括りを越えて、”日本人”という、大きな集団の孤独と向き合っているという気がします。