『湖畔の愛』
町田康(著)
(『新潮』2017年9月号)
周囲を山に囲まれた神秘的な湖――九界湖――からやや登ったところに建つ、九界湖ホテルを舞台に、繰り広げられる、笑いと芸と愛にまつわる、人間模様。 |
(感想)
まるで、吉本新喜劇を観ているような……というか、読んでいるような、展開と文章(地の文、会話文ともに)。
登場人物たちも、実に浅はかな印象の人々ばかりで、現実に生きている感じのしない奥行きのなさが、いかにも吉本新喜劇的で、「ナンセンス」という言葉がピッタリくる感じです。
ホテルの従業員である圧岡や新町の他に、「笑い」を芸として(もしくは生きる術として)極めようとする若者などが登場しますが、そこに描かれる「笑い」は、本当に面白いのかどうか、よく分からない「笑い」で、むしろそこに囚われてしまっている若者の背中からは、哀愁がにじみ出ています。
この作品に、何らかの意味や解釈を問うことは、それ自体がナンセンスなのかもしれません。
ただ読んだまま、感じたまま、面白ければ笑うし、笑えないなら笑えないということを、笑ってしまえばいいのかもしれません。
それが本来の「笑い」の姿であるはずですし、本作はそういうことを、小説で、日本語の文章で、構築しているんだと思います(と、このように分析してしまっている時点で、愚の骨頂というところでしょうか……)
非常に古典的で、かつ日本的な感覚が強いな、とも感じました。