『スイミングスクール』
高橋弘希(著)
/新潮社
両親が離婚し、母親と二人での生活だった主人公の「私」。
親子の間にあった「不和」と、突然の母親の死。 自らが娘の母親となり、その娘が小学生になってスイミングスクールに通いはじめると、かつての自分も同じように通ったことを思い出し、母との思い出も蘇ってくる。 |
【作品紹介】
『指の骨』や、『朝顔の日』の作者、高橋弘希さんの作品。
本作と共に、第155回芥川賞候補にもなった『短冊流し』が、収録されています。
なお、本作は第30回三島由紀夫賞の候補作品に選ばれました。(同賞は、宮内悠介さんの『カブールの園』が受賞しています)
【感想】
一見、とても幸せそうに見える平和な家族の物語ですが、何度も過去と現在を行き来する「私」の告白の中には、多くの空白が存在します。
この謎めいた「空白」からは、不可思議な緊張と不穏さが漂います。
そこには、「私」とその母親との間にかつてあった亀裂とその原因が隠されていて、物語の進展とともに、明かされることになります。
そして、かつての母娘の関係は、そこに繋がるもう一つの母娘(「私」とその娘「ひなた」)との関係にも影響を与えていて、複雑に屈折した愛情の気配がします。
言葉で語られていることよりも、語られていない部分の余白に、より多くの物語が眠っている、という印象を抱いた作品でした。