かがみの孤城

『かがみの孤城』

 辻村深月(著)

 (ポプラ社)

 

 

中学一年生のこころは、理不尽な理由でいじめの対象になり、入学後一月ほどで不登校になってしまう。

心配する両親の手前、心苦しいものを感じながらも、一日中家の中で過ごし、引きこもりの状態に。

そんなある日、いつものように一人で家にいると、突然部屋の鏡が光り出し、触れると引き込まれる感覚がする。

そのまま鏡の中に吸い込まれたこころは、鏡の向こう側の世界に倒れていて、そこには狼の面を被った少女がいた。そして、頭上には、童話に出てくるような””が建っている。

狼面の少女は、”城”のゲストとしてこころが招かれたのだと言い、願い事を叶えてくれるようなことも言っていたが、恐くなったこころは、すぐに鏡の中(元の世界)に逃げ帰ってしまう。

翌日、再び部屋の鏡が光り出すと、恐る恐るそこを通り抜けるこころ。

すると今度は、昨日見上げていた城の中にいて、そこには自分と同じ中学生くらいの少年少女たちがいた。

こころを入れて、七人。

そこへ再び現れた狼面の少女(”オオカミさま”)は、七人に向かって、奇妙なゲームの提案をする。

”城”のどこかに、”願いの部屋”がある。この部屋の鍵を見つけて中に入れたら、願い事を一つだけ叶えてやる、というもの。

鍵は一つ。願い事が叶えられるのは、一人だけ。期限は今日(5月の終わり)から、来年の三月三十日まで。

七人の、孤城での鍵探しと交流の時間がはじまる。

 

童話の世界がモチーフとして使われていますが、””の設定が非常にたくみで、引き込まれました。どうやら、引きこもりの不登校児ばかりが集められたらしい、という設定も良かったです。

こころをはじめとして、七人の登場人物たちのそれぞれの背景にある現実世界での暗部が、物語の進行とともに浮き彫りにされていきます。(こころ以外の六人に関しては、こころの視点を通した客観的な情報で描かれるので、全てが説明されたわけではないのですが、想像である程度のことは理解できる描き方がされています)

特に、主人公であるこころが、現実世界で受けたいじめの実態が、細部までリアルに描き込まれています。

一貫して、こころの視点を通して見る世界ですが、こころを心配する母親の心情も十分に伝わってきますし、いじめる側の少女たちの幼さい狡猾さや、一見”いい先生”である担任教師の不誠実な愚鈍さも、きちんと見抜いています。

また、こころが最悪な状況に追い込まれた時、自分が傷ついたことを、母親に対する”申し訳なさ”として感じてしまうというくだりなど、本当にリアルだと感じました。

こうした”リアル感”は、”非リアル”であるはずの””の中での人間関係でも続いていて、”鏡の向こうに城がある”という「ナルニア国物語」のようなむちゃくちゃな設定だけが、ファンタジー要素としてある、という感じです。

しかも、この一見むちゃくちゃなような設定ですが、ここには時間と空間に関する驚くべき秘密が隠されていて、それが物語の後半から、重大な意味を持ってきます。

こんなに複雑で色々な要素を、一つの物語としてまとめ上げている構成力も、本当にすごいと感じました。

大人が読んでもちょっとわくわくするような、そんなリアル・ファンタジーだったと思います。