『罪の声』
塩田武士著(講談社)
◇2017年本屋大賞ノミネート作品◇
日本の犯罪史上に残る未解決事件「グリコ・森永事件」をモデルに描かれたフィクションです。
「グリコ」は「ギンガ」、「森永」は「萬堂」、「グリコ・森永事件」は「ギン萬事件」、「かい人21面相」は「くら魔天狗」と、名称は変えられていますが、事件の全容はかなり史実に近い内容になっています。
まず、実際の「グリコ・森永事件」というものがどういう事件だったかというと……
1984年に江崎グリコ社長が誘拐され身代金を要求される事件が起き(身代金の受け渡しは犯人が現場に現れなくて成立せず)、
その後、社長も自力で監禁場所から脱出して警察に保護される。
しかし事件はこれで終わらない。
その後、江崎グリコを狙った放火や製品の菓子に青酸ソーダを入れるという脅迫状などが送り付けられるなどし、また脅迫は江崎グリコだけにとどまらずに、他の食品メーカー等にも波及して、日本中を巻き込んだ大事件へと発展する
と……いうもの。
この事件は、未解決なまま時効が成立してしまっただけに、謎が多く、様々な犯人説が未だ囁かれつづけています。
さて、本作『罪の声』では、この悪質な難解事件の真相に、大手新聞社の記者阿久津英士と、犯人側の親族である可能性に気付いた曽根俊也、二人の視点から迫っています。
文化部の記者である阿久津英士は、社会部の要請で無理やり未解決事件を取材するという仕事を割り振られ、「ギン萬事件」を調べはじめます。
一方、洋裁店を営む曽根俊也は、父親の遺品から「ギン萬事件」を匂わせる記述があるノートと、古いカセットテープを見つけてしまい、そのテープに録音されていたのが、実際の事件で脅迫に使われた子供の声で、しかもそれが自分の声であることに気付いて、父親の関与を疑い、これを晴らしたい気持ちから事件のことを調べはじめます。
二人にこれといった接点はありませんが、彼らは同世代で、事件当時は子供でした。
そもそも、菓子に毒薬を入れるという卑劣な犯罪行為の一番の被害者は、当時の子供たちだったに違いありません。多くの子供は、間接的な被害者に過ぎませんが、これに直接巻き込まれた子供もいた。
その不条理な現実に対峙して生きなければならなかった人々の悲劇と、それを受け止めた上で、未来に向かって生きることの意味、さらにそこにジャーナリズムはどのように関わり続けるべきなのか、ということを問うている作品なのだと思いました。
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