こんにちは。第4回目の『tori研』です。

今回はいよいよ、第121回の 文學界新人賞 をいってみようと思います。

一番直近ですので、参考になるかと……。もちろん、私の研究結果など、無視していただいていいのです。何よりも受賞作と選考委員のご意見が貴重です!

【第121回】  参考資料(『文學界』2016年5月号 文學界新人賞選評)

受賞作

「市街戦」 (砂川文次)

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「人生のアルバム」(渡辺勝也)

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「市街戦」 自衛隊の幹部候補生であるKは、過酷な行軍演習に参加し、九州の一角であるらしい田舎道を、他の幹部候補生らとひたすら歩き続ける。行軍中の描写が余りにもリアルすぎるので、まるで戦争体験者の手記を読んでいるかのような錯覚を覚えます。けれど、実際には戦争から遠い意識しかない現代日本の平和な町中を、ただ彼らは行進しているだけなのです。そこに、Kの大学時代や家族との思い出の場面が、「夢」とも「幻想」ともつかない形で入り込んで来ます。

これは「単なる自衛隊小説」だとは言い難い気がします。「戦争を知らない世代が書いた戦争」という感じです。「戦争を知らない世代が書いた戦争」には、どこまでも本物の「戦争」は出てきません。ただぼんやりとした不穏があるだけです。今までこんな小説を書いた若者がいなかったことが、おそらく受賞した一番の理由ではないかと思います。主人公に特定の名前を与えずにKとしている所など、意識して古い小説の形態をとっているようで、またこれが物語りに広がりを与えている気もします。つまり、Kとは「戦争を知らない世代」の代表格みたいな存在なのかと感じさせるからです。

行軍の描写に比べて、「夢」として差し挟まれてくる過去の思い出――つまり、Kという人物を形づくっている記憶の断片――は淡く、それが力を溜めてないために、終盤の爆撃の場面が平板になっていると選考委員の松浦理英子氏は指摘しています。そのような欠落を含んでいても、やはりリアルな行軍の描写は、選考委員の目を引いたようです。

選評を読む限り、この作品を最も押したのが吉田修一氏、最も押さなかったのは川上未映子氏だという印象です。

個人的に重要なのは、この小説が単なる自衛隊小説」を超えられているか、超えられてないか、という評価だと思うのですが、私は超えているのだと思います。最後の場面で平和ボケした日本の市街と爆撃を並列化して描き、一つのコマ(もしくは次元)に収めてしまうことで、漠然とした「戦争」をやはり描いているのだと思います。ここまで導いてきて着地させたことが、ただ単に「文章が上手い」というだけでない評価を得られた理由ではないでしょうか。

「人生のアルバム」 個人的にはあまり評価できなかった作品です。理由は(読書感想の方をお読みください)。けれどもちろん、私の個人的な意見や感想など、新人文学賞獲得研究には関係ありません。なぜ受賞されたのか、そこを追求あるのみです。

ストーリーは、百歳まで生きた女性の一生を、誕生から火葬される直前まで毎日欠かさずに撮られた写真から振り返る、というもの。

川上未映子氏の意見

候補作のなかでこの作品だけが虚構を書くということと構造を意識し、企みと試みを感じさせるものだった。

円城塔氏の意見

百科事典を引いてきたような事項の羅列であるとも見えるが、過多な情報を前提として、今は語ることのできない一人の人物像を作り上げる試みとして評価した。--(略)--前衛がありふれたものとしてみなされていくのは当然の流れとして、しかしこの先、Wikipedia型の小説などが発達すると、過渡期の作品と見られるようになるかも知れない。

確かに、企みはあると思います。なんといっても、歴史上なんの偉業も成し遂げていない一人の女性をとにかく誕生から一日も欠かさずに写真を撮り続ける、という一見無意味な行為があり、その記録を一冊の本にしようと試みる、更なる無意味な行為があって、そして実際に出来上がったアルバムを捲るように、かの女性の平坦で特に面白みもない人生物語が(ほぼ想像で)語られていく……。これほど無意味でこれほど空虚な小説はないと腹立たしくもなるのですが、ある意味、人生なんてどんな偉大なことを成し遂げた人物のものであっても、本質は似たようなものかもしれません。そういうことが言いたいのであれば、やはりそれこそ大いなる企みでしょう。

円城塔氏のいう「Wikipedia型の小説」というのが気になりますが、確かにこの小説はWikipediaの文章以上にはなにも伝えてこない平坦さがあって、「平坦なものの膨大な集積」というコンセプトなのかもしれません。

注目すべき点だと思うのは、作品を評価した川上氏及び円城氏を含めて、どの選考委員も何かしらの「薄さ」は感じているようで、小説そのものに深みはありません。それでも本作品が「市街戦」に並んで受賞しているということの凄みを、私個人は感じ入ってしまいます。小説というものの価値基準や何を頼りに書けばいいのか、さっぱり分からなくさせられた作品でした。

けれど、逆に言えば、小説って、なんでもいいのかも知れません。これぞ小説!」と自分が頭で思っているものを、一度滅茶苦茶に叩き壊してしまったら、もしかすると物凄いものが書けてしまうのかもしれない。

そんな漠然とした希望を抱きながら、今回の『tori研』はお開きとさせて頂こうかと……。なんともお粗末ですが……(*´Д`)

……ええ、はい、確かに(´;ω;`)

特に為になるような研究成果は、ありませんでしたよね……(~_~;)

なのに、時間を浪費させてしまったかも知れません。けれど、ここまでお付き合いいただいて、本当に感謝致します。

しかしながら、これに懲りずに、『tori研』は、継続投稿させていただく所存です。

次回は(あくまでも予定ですが)少し間を置いて、群像新人賞に挑みたいと考えております!!(;・∀・)

なお、読書感想などは随時投稿しておりますので、よろしかったらそちらも覗いてやってみてくださいm(_ _)m

もしまたお目にかかれることがあれば、幸いです、その時も、どうぞあまり期待はなさらずに、寛容なお心持でお付き合い願えれば幸いです。

ではでは。みなさま、お体に気を付けて創作活動に励まれてください(^-^)

不肖私も頑張ります!!(‘◇’)ゞ

しーゆーあげいん~(@^^)/~~~