ジニのパズル

「ジニのパズル」

 崔 美(著)

最初に一読した印象と、また選考委員の方々の(特に辻原登さんの)書評を呼んだ感想として、この作品が芥川賞候補作に躍り出ても違和感はないな、と思っていたら、本当に候補になって、「ああ、やっぱり」と納得しました。好き嫌いがはっきり分かれてしまう作品なのかもしれないとは思ったのですが、好き嫌いを超越した強さも持っている作品だとも感じました。

物語りは、日本生まれの在日韓国人の少女ジニが、背負った運命や困難に翻弄されながらも力強く(時には混乱し弱気になりながらも)生きていく姿を、少女の独白の形で綴ったものです。無垢で不器用なジニは、もう少し器用であればそんなに傷つかないであろうに、という一読者側からの感想は他所に、躍動します。そのさまが妙に生き生きと描かれていて、小説の核になっていると思います。



日本、韓国、北朝鮮。この近くて隣り合った世界にしっかりと境界線があることを(地球は境界線だらけです)、多くの人が了解しながら避けてしまいますし、その話題を持ち出すと、きっと日本人であろうと在日韓国人であろうと何者であろうと、やはりジニのように打ちのめされたりまた逆に誰かを打ちのめしたり、その結果、やはりどうしようもなく不愉快な思いをしたりして、より一層境界線を深く濃くしてしまうのではないか、そんな恐れさえ抱いてしまいます。少女ジニは、そんなあやふやで繊細で歪みきった場所に焦点を当て、じっと目を凝らし、その膿んだ箇所を見極めようとがんばります。ものすごく真っ直ぐで、清んだ眼差しです。

この作品が素晴らしいと思うところは、少し退屈で冗長だと思える始まりとラストかもしれません。ステファニーという救世主を得て、どこにも出口のなかった暗がりに、ようやく光が差し込みます。この部分がなければ、これは実に危険で、ある人たちには不愉快な思いだけをさせてしまう、とても政治色や社会色の強い作品で終わってしまったでしょう。だとすると、純粋無垢なジニの傷心は浮かばれなかったでしょうし、この小説がこんなにも豊かに輝くことはなかったと思います。