新潮 2010年 11月号 [雑誌] 

「ののの」

太田靖久(著)

(第42回新潮新人賞受賞作)

※本作品は、「新潮」(2010年11月号)に掲載。

出だし数頁の筆力は凄いものを感じたのですが、後で冗長な感じに流れてしまって残念でした。

近所の空き地に白い本が山積みになっている場面など幻想的ですし、題名にもなった「のの」という鳥が出てくるのも面白かったです。ただ、いかにも小説的だなと感じさせるペダンティックな会話は、リアル感を薄めてしまったのではないかな、と思います。ここまでペダンティックな会話を挿入するなら、いっそ読者を辟易とさせるくらいまで、もっと議論を深めてほしかったです。




この作品を読んでいて、途中から頭に浮かんだのは、中島敦さんの「文字禍」と円城塔さんの「道化師の蝶」でした。「文字禍」は、「文字」が霊として人間に災いをもたらすという話で、「道化師の蝶」は(とても難解なので内容を要約することは難しいのですが)物語そのものが虫のように捕らえられる存在として漂っていて、語り手と物語そのものが一体化してくるような奇妙な展開(この解釈が間違ってましたらすみません)で、つまり、前者は「文字」が、後者は文字を組み立ててつくる「物語」が、通常ではありえないとらわれ方をする、という小説です。

文体や構成全てを駆使して展開できる点で、こういうデーマは面白いですし、まだまだ色んな挑戦が出来る(半永久的に未開の?)分野なのかな、と思います。