ある日の結婚

「ある日の結婚」

 淺川継太著(講談社)

 

 

(ネタバレアリ注意)

主人公の「ぼく」は、毎朝出勤途中で必ず遭遇する女性に、偶然以上の強い結びつきを覚える。毎朝会うことが本当に偶然ではなく特別な結びつきであるのかを試そうと、抜き打ち的に日曜出勤してみることにすると、やはり二人は遭遇した。その時に、「ぼく」が落とした文庫本を彼女が拾ったことがきっかけで、はじめて言葉を交わし、知り合うことになる。二人はたちまちに意気投合し、やがて男女の関係になるが、「ぼく」は彼女の肉体の一部が、とてもいい匂いを発していることに気付く。まるで禁断の果肉を齧るように、「ぼく」は彼女の一部を口にしてしまう。それから普通の食べ物が摂取できなくなった二人は、空腹を覚える度にお互いの身体を少しづつ齧っていく。お互いがお互いを食べたい欲望は、エスカレートしていき、ある時二つの身体は一つに繋がるのだった……。

第53回群像新人文学賞を受賞した「朝が止まる」を、どこかで思い出してしまう出勤途中での出会いですが、禁断の一口を齧ってしまう辺りから、物語はあらぬ方角へと突き進んでいきます。

観念的な修飾が多くて、それがややリアリティのない話をさらにノンリアルな雰囲気にしてしまっていて、少し残念な気もします。が、そこが奇妙でメルヘンチックな雰囲気を醸し出させているとも言えて、評価は分かれるのかもしれません。私的には、ストーリーがかなりぶっ飛んでいるので、もはや文体自体からメルヘンを演出する必要はないのではないか、と感じるのですが、作者の持ち味であることは確かです。

奇妙な結びつきをした男女が、やがてお互いの肉体……というよりも「肉」そのものに食欲をもよおすあたり、「喰う喰われる関係にありながらの友情」が男女の関係に似ていることでも話題になった、童話「あらしのよるに」を、なんとなく思い出してしまいました。(もちろん、前記の童話では純粋な友情をテーマにしているのですから、単純な比較は出来ないと思います)

お互いの「肉」への食欲を抑えきれずにどんどん食べ合っていく姿が、それほどグロテスクではなく読めてしまったのは、やはりメルヘンを醸し出す文体のおかげでしょうか。

本作は、究極的な「奇跡の愛」を描いているとも言えますが、最終的に「ぼく」が「彼女」と一つになってしまう表現がシュールで、「個」(「私」)とは一体何なんだろう? という素朴な問いかけが沸き上がってきて、いろいろと深く考えさせられる作品でした。

前半ではどうしても「朝が止まる」に似ているシュチュエーションだったこともあり、少し既視感を覚えましたが、後半から一気に面白くなり、ラストの結婚のシーンはシュールなのになぜかほのぼのとした気分にもなりました。

※「ある日の結婚」には、前述の「朝が止まる」他、フジテレビ「世にも奇妙な物語’13 秋の特別篇」でドラマ化された作品の原作になった「水を預かる」も収録されています。

※「朝が止まる」→ 読書感想はこちら

※上記参考文献

完全版 あらしのよるに (あらしのよるにシリーズ)
「あらしのよるに」

(講談社)