『第三の嘘』 アゴタ・クリストフ(著) 堀茂樹(訳) (早川書房)
『悪童日記』『ふたりの証拠』に続く三部作の完結編とも言える作品です。
完結編でありながら、むしろ謎が(もしくは疑惑が)より深まったという気がします。
この三つの作品は、普通の連作とは違って、物語に登場する人物たち(主人公も含む)の造形(その人物の生い立ちや背景含める人物像)が、微妙に変化したりしながら繋がっていて、全く奇妙なバランスと関係性を保っています。
というのも、物語を語る人物そのものが嘘つき(必ずしも真実を語っているとは限らない人)ということを前提にされていて、最も嘘つきなのが、読み手が信用するしかない立場から安心して身を委ねている人物そのものである可能性を秘めている作品だからです。
第一作目の『悪童日記』は、第二作目の『ふたりの証拠』でその隠されていた嘘が暴かれ、さらに第三作目の『第三の嘘』が、前作の真実をさえ嘘の世界に引き摺り込みます。
全てが語り終えられた後、本当は何が真実だったのか嘘だったのか、読者はさらに混沌とした気持ちへと突き放されていくことでしょう。そうか、これは創作という名の、壮大な嘘だったんだ、と気がつくのです。
これほどまんまと作者に裏切られながら、その裏切りが妙に心地よいというのは、不思議としかいいようがありません。小説を読むとは、作者の嘘に騙されるという喜びを通じて、作品と共犯になることなのかも知れません。