『両方になる』 アリ・スミス(著) 木原善彦(訳) (新潮社)
実在したイタリアの画家、フランチェスコ・デル、コッサ(15世紀ごろ)と、現代に生きる母親を亡くしたばかりの少女ジョージアの世界が、時空を飛び越えて交わるという不思議な感覚の小説。
小説は二つの章立てから成っているけれど、どちらも”第一部”となっていて、もしかするとどちらから読んでも良いのかもしれない。作者が物語中に仕込んである秘密は本の中でも明かしてはならないとされているくらいだから、当然そこに触れるような内容もここでは書かれてはならないであろうことなので、書かないのですが、読み終えてもまだ私には多くの謎が残っているような気がして落ち着きません。不思議さに満ちた絵画を前にした感覚を、小説の技法で表現しようとした作品ではないかと私個人は受け取っていて、だから考えるよりもまず感じたままを味わう物語として読めば良いのではないかと思います。少なくとも私はそのように読んでみて、とても面白い発見をいくつもした一冊でした。