『焰』 星野智幸(著)  (新潮社)

 

本書は、9篇からなる短篇で主に形成されていますが、作品と作品を繋ぐように挟まれている文章があり、それが全体の大枠となって壮大な物語をなすという仕掛けになっています。

一つ一つの作品は、別々の雑誌にそれぞれ短篇として発表されたもので、内容的には繋がりのない物語なのですが、読み通してみると互いに共振し合っているようにも感じられます。

“他人同士である個と個が境界をなくし、一つの宇宙(命)として再生するために紡がれた物語”だったのかな、と私個人は読みました。

個が個としての境界をなくすと同時に、より鮮明に自己の輪郭を確かめているという感覚もあり、一個の魂の旅物語だったようにも思えてきます。

猛暑日の続く中、回転することに突然目覚め、回り続けることに不思議な感覚を覚えてしまう人の話(「ピンク」)や、人間が通貨に変えられてしまうコミュニティの話(「人間バンク」)、介護の苦痛から親を怪しげな施設に引き渡してしまう青年の話(「何が俺をそうさせたか」)、土と同化しようとする男の話(「地球になりたかった男」)などなど、どれも奇想天外な内容です。

特に、現代版の姨捨山のような様相をしながら、食物連鎖の中の個としての立場へと人間の命を引きづりだした「何が俺をそうさせたか」には、強く打ちのめされるものがありました。

世界の残酷さ、孤独、死、絶望というトンネルをくぐり抜けて、生命ある広大な宇宙へと読者を誘ってくれる、そんな一冊だったように思います。