『夏毛におおわれた』
藤田貴大(著)
(『文藝』2018年秋号に掲載)
シュールな劇のようでもあり、詩のようでもあり、誰かの夢の世界のようでもある。
人がビルから落下してくるというショッキングな出だしからはじまるのですが、この場面に付されているのは、”サクッと”(降ってくる)という軽すぎる擬音。
潜在的な恐怖を、なにか違うものに転換してしまっているとも言えるのでしょうし、現実にあるものを、人がビルから落下するという(しかも同時多発的に)あり得ない残酷に転換している、とも言えるのだろうかと思います。
作品全体が、何かの暗喩として広がっていて、それが全く歪んでいるという印象を持ちました。そしてその歪みは、奇妙ですがそれほど不気味でもなく、割と日常的な感覚と似ているようにも思いました。
不思議な読み心地でしたが、小説というより、なにかもっと違うものだという気もしました。