文學界2018年10月号

『私のたしかな娘』

坂上秋成(著)

(『文學界』2018年10月号に掲載)

 

 

自分の雇用主でもあり友人でもある夫婦の娘に、「エレナ」と名付け(本来は、由美子という名前がある)、少女を自分の娘だと感じ、本人(少女)にもそのように告白して、奇妙な関係を築いている男(34歳)の物語。

少女と男の関係は、一見微笑ましいともとれる愛情で結ばれたものなのですが、男の視点からだけで描かれる告白調の世界の歪みは、奇妙を通り越して、どこか不気味ですらあります。

それは、本来あるべき形から逸脱した愛情というものが、その善悪に関わらず、一律に負の評価を与えられてしまうことへの静かな抵抗であるようにも読めました。

男の視点から描かれているにも関わらず、その異様な臭気にたじろがずにはいられない。なんとも言えない際どいものを、暗闇からせっせと掘り出してくるような、そういう危ない小説だと感じました。