ファーストラヴ

第159回直木賞受賞作品

『ファーストラヴ』

島本理生(著)

(文藝春秋)

 

 

 

父親を刺殺した容疑で逮捕された、美しい女子大生の聖山環菜。彼女は父親を殺した動機は、自分でも分からないという。

被害者と加害者が家族同士であるという、皮肉で謎の多い事件の真相に、臨床心理士の視点から迫ります。

当該事件のノンフィクション書籍の出版にあたり、執筆を依頼された真壁由紀という視点人物の背景にもドラマがあり、映画を観ているような感覚で読めてしまうといった、展開の面白さがあったと思います。

殺害されたとされるのは父親なのですが、事件を紐解いていくとそこに母親という存在が不気味に関わっていて、やはり暴力というのは連鎖していくものなのだという一つの形(もしくは呪縛)に触れた気がしました。

内容は大きく違っても、直木賞と同時発表された第159回芥川賞を受賞した高橋弘希さんの『送り火』も、閉鎖された社会での暴力の連鎖が描かれていたので、そこに同時代性のようなものを見る思いでした。