『わが神曲・放射線』
四元康祐(著)
(『群像』2018年9月号掲載)
ドイツ在住の詩人である作者が、おそらくは自らの体験であろうと思われる前立腺癌手術後の闘病記を私小説的に綴ったもので、『奥の細道・前立腺』からはじまり、一つのシリーズのように書き進められている小説でもあります。
作品の魅力としては、『奥の細道ーー』(『群像』2月号)からそうなのですが、散文と詩が混合された独特の書き方であるというところです。
詩的なものや哲学的なもの、観念、といったものが、詩人の頭の中で常に現実と繋がっている感覚が、散文と詩を織り交ぜたことで、より分かりやすくダイレクトに伝わってくる気がします。
ダンテの『神曲』の、特に地獄変を意識した内容なのは、放射線治療から連想される死のイメージの広がりでもあるのでしょう。
詩人の頭の中は、様々な連想と連想が複雑に絡まっていて、散文の中に納まりきれない跳躍を、詩が代弁するかのように時折差し挟まれてくるところは、他の手法ではあり得ないようなショートカット技術(?)とも言うべきものではなきでしょうか。これが散文で高まった想像力を、さらに掻き立てていきます。
けれど、なによりもこの一連の私小説的闘病記録の魅力は、語り手の飄々とした明るさです。死をそれほど遠くない未来の現実として受け入れてもいるようなのに、そしてそのことを孤独な感性で恐れてもいるようなのに、なぜかこの語り手の語り口は、妙に明るいのです。
そこが読んでいて、なにより救われるという気がしてしまうのです。