第114回芥川賞受賞作品
『豚の報い』
又吉栄喜(著)
(文藝春秋)
又吉栄喜さんは沖縄出身の作家で、芥川賞を受賞した本作も、沖縄の島が舞台です。
大学生の正吉と、彼の馴染みのスナックで働く女三人(ママのミヨと、ホステスの暢子と和歌子)が連れ立って、豚のもたらした厄を落とすため、真謝島へ渡ります。
真面目そうな青年と、三様に年代の違う三人の女たちの組み合わせのちぐはぐさが珍道中といった具合に面白く、それでいて4人にはそれぞれ胸に秘め続けてきた苦しみや悲しみがあり、それがぽろぽろと旅の途中で零れ落ちてくるように飛び出してくるのも、心に残る印象でした。
過去のしがらみを背負っている登場人物たちが、みな一様に明るく、あるいは明るく振る舞い生きよう、生き抜こうとしているさまは、健気で美しくもあると思いました。
沖縄の風土に根付いた御願(ウガン)や、現在はなくなったそうである風葬など、神や人間の死に対する独特の感性を持つ土地の空気を、肌で感じ呼吸して生きる人物たちの臨場が、そこにあるとも思いました。
なんというか、素朴で無骨な手触りのする、それが妙に魅力的な作品だったと感じます。
女たちがよく喋り、よく笑い、よく食べて、そして猛烈に腹を下すところなど、まったく「生」そのもののグロテスクな描写であり、そこに向けられた正吉という青年の眼差しがどこまでも優しい共感に満ちたものだったのも、特に印象的でした。