寝ても覚めても

第32回野間文芸新人賞受賞作品

『寝ても覚めても』

柴崎友香(著)

(河出書房新社)

 

 

突然姿を消した恋人(麦)のことが忘れられない主人公の女性(朝子)の前に、麦とうりふたつの顔を持つ青年(亮平)が現れて……

2010年に野間文芸新人賞を受賞した本作は、濱口竜介監督により映画化され、第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、再び話題を集めています。

10年越しの恋が描かれていて、朝子という一人の女性の22歳から31歳までの時間の流れがあり、それがそのまま小説として築かれています。

二人の青年を愛した、ごく平凡な人生を送っている朝子という女性の視点で見た世界。

それは、過去、現在、未来の時空を貫いて、じっと何かを見つめる静かな眼差しの集積でもあり、その眼差しは、世界の隅々にまで時空を超えて放射状に放たれます。

作者の柴崎友香さんの、五感を研ぎ澄ました上での観察力の鋭さと、捉えた世界を言葉として再築する創造力の強さに、圧倒されました。

確かに、人間世界の常識でみれば、主人公の選んだ最後の答えは、理不尽で身勝手なものであると言えるのでしょうが、ここで描かれたものは、既に人知を超えた神話にも近い感覚だったように思います。

そういう領域にまで連れて行かれた、というのが正直な感想です。