『海を駆ける』
深田晃司(著)
(文藝春秋)
(『文學界』2018年4月号に掲載)
カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門の審査委員賞を受賞した『淵に立つ』の監督、深田晃司さんが、ディーン・フジオカさん主演で作製した『海を駆ける』。この映画を、監督自ら小説化した作品です。
インドネシア共和国のスマトラ島北端に位置するバンダ・アチェの海岸で発見された正体不明の、奇妙な男。
彼の巻き起こす奇跡と、4人の男女の人間模様が、過去にスマトラ沖を襲った津波の記憶と交錯しながら展開します。
喪失と再生の物語なのだと思うのですが、単純に希望だけを描いているわけではないのだとも思いました。
映画ではディーン・フジオカさんが演じるところの、浜辺に流れ着いてくる奇妙な男(彼は自然の化身のようなものなのかな、と思うのですが)、その異質さが、特に印象深かったです。
彼の異質さは、なんとなく宮沢賢治の『風の又三郎』に通じるものがあって、現実と幻想が入り混じった、現代版の神話といった様相を呈しているように思えました。
また、複数の人物視点により構成されているところや、映像に転換しやすい展開と描写で作品が構築されているところなど、映画をつくっている人が書いた小説だな、と感じました。