第44回川端康成文学賞受賞作品
『こことよそ』
保坂和志(著)
(『新潮』2017年6月号に掲載)
作家である自分を語り手にした私小説、といっていいんだと思います。
出版社から、谷崎潤一郎全集の月報に載せるエッセイを依頼された「私」は、くだんの作家の作品を思い出すとともに、その作品を読んでいた頃の自分や、関わった友達のことなども思い出します。
遠い過去と、少し前の過去、それを書き留める今。その思考は、時空を不規則に飛び越えて、記憶の中を何度も何度も行き来します。
けれど、どんなに往復しても、そこにはゆったりとした小説そのものの時間の流れがあって、読んでいて、それがとても心地よかったです。
何度も行き来した記憶の描写が、所々で重複することもあるのですが、そういう箇所では(他人の記憶のことなのに)自分の頭の中にある記憶がしっかりと整合した時のような、妙な安堵感があり、そういうところに小説の膨らみを感じました。

![新潮 2017年 06 月号 [雑誌]](https://i0.wp.com/images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/512XnEqPbQL._SL160_.jpg?resize=111%2C160&ssl=1)