パトロネ (集英社文庫)

『パトロネ』

藤野可織(著)

(集英社)

 

 

 

自分と同じ大学に入学した妹と、同居することになった「」。それまで独り暮らしをしていた「私」のワンルームのマンションに、妹が引っ越してきたのだ。

しばらく会わぬうちに妹は変わっていて、なぜか「私」をずっと無視し続ける。

そんな妹との、会話のない生活が続いて……

爪と目』で第149回芥川賞(2013年)を受賞した藤野可織さんが、2011年に雑誌『すばる』(7月号)に発表した作品です。

一人称で書かれた中篇小説で、淡々とした文体の雰囲気は、『爪と目』に通じるものがあると感じました。

解釈は色々あると思うのですが、ある種の幽霊譚(もしくは妄想譚)として捕らえていいのかな、と思います。映画の『アザーズ』とか、『シックス・センス』を思い出しました。

ただ、上記二作品と本作との違いは、謎の種明かしを最後までしていないことです。あえて(しない)、ということなのでしょう。

そして完全に全てを明かさないのは、そもそも「私」という語り手にも、作者にも、最初からそんな気がさらさらないからなんでしょう。

この作品は、「私」という人物の他には妹と、彼女たちが所属した大学の写真部の仲間たち、皮膚科の先生、途中から登場する謎の少女「りーちゃん」くらいで、ごくわずかですが、「私」という語りで語られた話を、それぞれの登場人物の視点と入れ替えると、全く違う世界が立ち上がるというように設計されていて、しかも読者は意識的にも無意識的にも、この視点の入れ替えを同時進行的に何度も行いながら読み進んでいくことになるように(上手く)設計されていて、だからこの「私」側からの一方的な種明かしなど、必要ないんだと思います。

ちょっと変わった姉妹の物語だと思って読んでいると、急に背筋がぞくぞくする感じになってきて、でも本当はただ少し夢見がちな女子大生の日常が描かれていたにすぎなかった(のかも?)と、読者としては翻弄されてしまうわけですが、その揺れてしまう感じが妙に心地良かったです。

ちなみに、作中でもくわしく解説がありますが、パトロネ(パトローネ)というのは、写真機にフィルムをそのまま装填できる円筒形の容器のことみたいです。