2018年本屋大賞ノミネート作品
『騙し絵の牙』
塩田武士(著)
(KADOKAWA)
2017年の本屋大賞で三位となった『罪の声』の作者、塩田武士さんの作品です。
これは、映画やドラマではなく小説なので、”主人公に俳優の大泉洋を「あてがき」する”というのがどういうことなのか、よく分からないまでも読み始めました。
ああ要するに、大泉洋は主人公である速水という男の、イメージキャラクターみたいなもんなのかな、となんとなく設定が掴めてきても、いまいち作品のポイントが掴めずにいました。
内容からすると、斜陽産業となりはててしまった出版業界の内幕を描いていて、速水という男は、40代の雑誌編集者。自らが編集長を務める雑誌「トリニティ」の廃刊を上司に仄めかされてから、それをなんとか阻止するために、あれやこれやと動き回る、という展開。
どこに騙し絵があるんだろうと、作品の中盤を過ぎても分からずに、漫然と読み進めていました。
物語が一気に面白くなったのは、終盤に入ってからでした。
そこからエピローグに流れると、さらに見えていた景色が変わって、騙し絵がついに姿を現してきます。
登場人物の行動にばかリに意識が奪われていて、作品そのものの奥にあった牙に気付くのが遅れたのかもしれません。作者の計略にまんまと嵌ってしまった、というわけで、まったく理想的な読者だったようです。
しかしながら、騙されるというのは、そんなに悪い読書体験ではありません。というか、私はむしろ、いつも作家には、面白く鮮やかに騙されたい、騙して欲しい、と切に願っていて、今回はその願いが叶ったというわけです。