第41回文藝賞受賞作品
『野ブタ。をプロデュース』
白岩玄(著)
(河出書房新社)
2004年に文藝賞を受賞した作品です。
当時は、テレビドラマにもなって、話題を集めていた、という印象ですが、実は私は本作を読むのは初めてで、ドラマも観ていませんでした。なのですが、余計な先入観もなく読めて、かえって良かったかもしれません。
転校してきたいじめられっ子(野ブタ)を、主人公の少年(桐谷修二)がプロデュースして、人気者にしていくというストーリー。ドラマでは、いじめられっ子は女の子でしたが、原作は男の子です。
冒頭に辻ちゃんと加護ちゃんが出てきて(懐かしいなあ)、彼女たちがグループから卒業(脱退)を発表しているというところに、少しだけ時間の経過を感じました。もう14前の作品なんだな、と思うと同時に、その割に主人公の少年の語りは、色あせた気配もなく、良かったなと感じました。
傲慢で自信家で自己愛が強くて軽薄で幼くて……という普遍的な若者の要素をふんだんに持った少年は、自分の内面世界に対して至極冷静です。
まるで他者を観察するように自己分析することが出来る(と思っている)彼は、外界の人々(学校の友達)に対して、自分で自分を演出し、常にカッコイイ桐谷修二というキャラクターを作り上げることに成功しています。
この素晴らしいプロデュース力をもってして、いじめられっ子の野ブタをも、人気者にするべくプロデュースしてしまおう、というわけです。
野ブタこと信太のキャラクターが、やや戯画的ではあるのですが、いじらしくてどうにも憎めないところがあり、主人公以上に小説の魅力にもなっていたと思います。
人の個性とかアイデンティティとかについて、けっこう鋭い投げかけも、されていたように思います。
そういう視点で読んでみると、ラストは主人公の、かなり歪んだ内面が狂気的にも見れて(しかも彼はそこから抜け出せなくなっている)、どうも笑えませんでした。